当社グル-プでは、中期経営計画を推進していくための経営基盤として「リスクベース経営(ERM*1)」に取り組んでいます。具体的には、「リスク」?「資本」?「利益」の関係を常に意識し、リスク対比での「資本の十分性」や「高い収益性」を実現することにより、企業価値の持続的な拡大を図っていきます。「資本の十分性」に関しては、AA格相当の資本を維持する方針としており、「高い収益性」に関しては、資本コスト*2(7%)を上回る資本効率を実現し、将来的に12%程度のROEをめざしています。
中期経営計画を、リスクベース経営(ERM)の観点で整理したものが、下図のフレームワークです。事業構造改革やグループシナジーの取組みにより「持続的な利益成長」を実現するとともに、生みだされた利益?資本を、健全性を維持しつつさらなるポートフォリオの分散や株主還元の充実といった「資本の有効活用」に振り向け、それを次のさらなる成長に繋げることをめざしています。
- *1 ERM:Enterprise Risk Management
- *2 資本コスト:投資家が投資先企業に期待する収益率のことをいいます。当社グループでは、CAPM法(資本資産評価モデル)により算出しており、成果指標の策定や事業投資の判断に活用しています。
![リスクベース経営を基軸に、健全性を確保しつつ戦略的に資本分配を行い、利益成長を達成する。|リスクベース経営(ERM)|[持続的利益成長]国内損害保険事業:グループ中核事業として持続的成長。新種保険の拡販によるポートフォリオ変革。 国内生命保険事業:グループの長期的利益に貢献する成長ドライバーとして、経済価値ベースの企業価値を拡大。保障性商品の拡大。 海外保険事業:グループの成長ドライバーとして、高い内部成長の実現と新規事業投資の実行。 グループ全体:さらなるシナジーの発揮。事業費の適切なコントロール。|→利益の創出 ←戦略的資本配分|[資本の有効活用]成長に向けた投資:分散の効いた新規事業投資。将来の収益基盤構築に向けた先行投資(新商品?新技術)。 リスクの削減?コントロール:政策株式の継続売却、自然災害リスクや金利リスクのコントロール。 株主還元:株主配当水準の引き上げ。機動的な自己株式取得などによる適正資本水準への調整|利益成長+株主還元の充実+健全性確保](/ir/financial/images/img_risk_01.png)
また、当社グループは、リスク軽減?回避等を目的とした従来型のリスク管理にとどまらず、リスクを定性?定量の両面のアプローチから網羅的に把握したうえで、これらのリスク情報を有効に活用し、当社グループ全体の「リスク」?「資本」?「利益」を適切にコントロールしています。
なお、本項においては、将来に関する事項が含まれていますが、当該事項は本有価証券報告書提出日現在において判断したものです。
(1)定性的リスク管理
定性的リスク管理においては、環境変化等により新たに現れてくる「エマージングリスク」を含めたあらゆるリスクを網羅的に把握して経営に報告する態勢としており、グループを取り巻くリスクについて随時経営レベルで論議を行っています。
こうして把握したリスクについては、経済的損失額や発生頻度といった要素だけでなく、業務継続性やレピュテーションの要素も加え、総合的に評価を行い、グループ全体またはグループ会社の財務の健全性、業務継続性等に極めて大きな影響を及ぼすリスクを「重要なリスク」として特定しています。
エマージングリスクの洗い出しと重要なリスクの特定プロセス
![[エマージングリスク]環境変化等により新たに現れてくるリスクであって、従来リスクとして認識されていなかったもの、あるいは、リスクの程度が著しく高まったもの。グループの「エマージングリスク」の候補:前年度のエマージングリスクおよびその候補。各事業部、主要グループ会社のエマージングリスク。新たに洗い出したエマージングリスクの候補。 スクリーニング:影響度、対応状況、リスクの高まりを踏まえスクリーニング → グループの「エマージングリスク」|[重要なリスク]財務の健全性、業務継続性などに極めて大きな影響を及ぼすリスク。グループの「重要なリスク」の候補:前年度のグループの重要なリスク。グループのエマージングリスクのうち影響度の大きなリスク。 マトリックス評価による特定:「損害規模」×「頻度?蓋然性」のマトリックス評価による特定。 → グループの「重要なリスク」](/ir/financial/images/img_risk_02.png)
2020年度の重要なリスクと主な想定シナリオ
重要なリスク | 主な想定シナリオ |
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国内外の経済危機、金融?資本市場の混乱 |
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日本国債への信認毀損 | 政府の信用力低下により日本国債が暴落し、当社グループ保有資産の価値が大幅に下落する。 |
巨大地震 |
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巨大風水災 |
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火山噴火 | 富士山の大規模噴火による多量の降灰により、広範囲で交通網寸断、停電、通信障害等が発生し、首都機能が麻痺する。また、当社グループの事業継続に重大な影響が生じるほか、当社グループ保有資産の価値が大幅に下落する。 |
パンデミック | 新たな感染症の蔓延により多くの人が亡くなり、多額の保険金支払が発生する。また、当社グループの事業継続に重大な影響が生じるほか、当社グループ保有資産の価値が大幅に下落する。 |
革新的新技術による産業構造の転換 |
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サイバーリスク |
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テロ?暴動 | 当社グループの重要拠点近くで大規模なテロや暴動が発生し、当社グループの事業継続に重大な影響が生じる。 |
コンダクトリスク*3 | 当社グループや保険業界の慣行が世間の常識と乖離して不適切な企業行動とされ、レピュテーショナルリスクの顕在化によって企業価値を毀損する。 |
法令?規制への抵触 | 当社グループの取引が国内外の法令?規制に抵触し、監督当局に対して多額の課徴金や和解金の支払いを余儀なくされる。また、レピュテーショナルリスクの顕在化によって企業価値を毀損する。 |
- *3 不正行為、不適切な対応、社内や業界慣行の世間との乖離などにより、顧客保護、市場の健全性、有効な競争、公益などに対して悪影響を及ぼした結果、企業価値の毀損に繋がるリスク。
(2)定量的リスク管理
定量的リスク管理においては、格付の維持および倒産の防止を目的として、保有しているリスク対比で資本が十分な水準にあることを多角的に検証しています。
具体的には、リスクをAA格相当の信頼水準である99.95%バリューアットリスク(VaR)で定量評価し、実質純資産*4をリスク量で除したエコノミック?ソルベンシー?レシオ(ESR)の水準により、資本の十分性を確認するとともに、事業投資機会や今後の市場環境の見通し等も総合的に勘案して資本政策を決定しています。
当社グループのESRのターゲットレンジは150~210%ですが、2020年3月末時点におけるエコノミック?ソルベンシー?レシオ(ESR)は153%となり、資本が十分な水準にあることを確認しています。
更に、定性的リスク管理において特定した「重要なリスク」のうち、経済的損失が極めて大きいリスクについてはストレステストを実施することにより、事業継続および破綻回避の検証を行い、資本の十分性および資金の流動性に問題がないことを確認しています。
- *4 実質純資産:財務会計上の連結純資産に、異常危険準備金、価格変動準備金等の資本性負債、生保保有契約価値等を加算する一方、株主還元予定額やのれん等を控除して算出します。
![[エコノミック?ソルベンシー?レシオ(ESR)の状況]153%:2020年3末 リスク 2.7兆円、実質純資産 4.2兆円 リスク量は99.95%VaR(AA格基準)に基づくモデルで計算|エコノミック?ソルベンシー?レシオ(ESR)をベースとした資本政策 ESR:更なる事業投資, and/or、追加的リスクテイク, and/or、株主還元 を実施。 210%:Target Range 更なる事業投資, and/or、追加的リスクテイク, and/or、株主還元 を柔軟に検討。 150%:利益蓄積による資本水準の回復をめざす、リスク抑制的な事業運営により、リスク水準の抑制を図る。 100%:リスク削減の実施、資本増強の検討、株主還元方針の見直しの検討。](/ir/financial/images/img_risk_03.png)
(3)BCPの策定
重大な災害が発生した場合においても、重要業務を継続し早期復旧を図るため、災害に関するBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を策定するとともに、定期的に訓練を実施するなどして備えています。
(4)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響
保険引受面においては、経済活動の落ち込みに伴う保険料収入の減収、海外を中心とした新種保険等の保険金支払の増加、資産運用面においては、金利低下によるインカム利回りの低下や株価下落等に伴う減損の計上等があります。
本有価証券報告書提出日現在において想定される主な影響は、次のとおりです。
分類 | 区分 | 主な影響 |
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保険引受 | 国内 | 自動車保険:新車販売減少による減収の一方、交通量減少による事故減少で保険金支払が減少 |
傷害保険:旅行者数の減少に伴い、旅行傷害保険料が減少 | ||
海上保険:世界的な物流減に伴い、貨物保険料が減少 | ||
新種保険:感染症を明示的に補償する一部の特約(特定業種向け等)での保険金支払が増加 | ||
海外 | 興行中止保険:イベントの中止や延期に伴う保険金支払が増加 | |
休業利益保険:感染症を明示的に補償する一部の契約での保険金支払が増加 | ||
信用?保証保険:経済停滞の程度が大きくなった場合、保険金支払が増加 | ||
資産運用 | 金利低下に伴うインカム利回りの低下 | |
米国拠点で保有する株価下落に伴う米国会計基準上の評価損 | ||
デフォルト率上昇に伴う信用リスク資産の減損 |